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2024.04.30

中価格帯ブランドの苦境とその背景に関する考察

「化粧品マーケティング担当者のためになる話」では、運営会社WTCの社員が、それぞれの専門分野のノウハウや最新トレンドを発信する企画を始動しました。
第一弾となる今回は、化粧品コミュニケーションプランナーの大野が中価格帯化粧品ブランドの苦境について解説します。

2024年1月、花王が中価格帯メイクアップブランド「オーブ(AUBE)」のブランド終了を発表したことが話題となりました。“中価格帯ブランド”とは、スキンケア商品で2,000円~6,000円程度、ポイントメイク商品では2,000円~3,500円程度の価格帯の商品を、ドラックストアなどを中心に販売するブランドを指します。

中価格帯ブランドといえば、以前はシーズン毎に店頭ポスターやテレビCMなど多くのプロモーションが行われ、ドラッグストアの化粧品売り場でも主役級の立ち位置を誇っていました。中価格帯のいわゆるドラコスブランドは化粧品メーカーにとって以前は看板ブランドでしたが、現在では多くのブランドが苦境に立たされています。

花王「オーブ(AUBE)」ブランド終了

先日、花王がメイクアップブランド「オーブ(AUBE)」のブランド終了を発表しました。2024年3月から順次生産を終了し、8月末を目途に販売を終了する予定です。オーブは、1994年に誕生し、ドラッグストアを中心に2000~5000円程度のいわゆる“中価格帯ブランド”として販売されてきました。過去には、俳優の石原さとみさんや、ガールズグループTWICEなど旬なタレントを起用したプロモーションで話題を喚起してきた同ブランドですが、ブランド誕生30年でその幕を閉じることとなります。

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中価格帯ブランドの苦境にある背景

中価格帯ブランドが苦戦している背景には、いくつかの要因があります。

アフターコロナにおける消費者需要の二極化

2020年〜2021年の新型コロナウイルス感染拡大による外出機会の減少やマスク着用の常習化を受けて、国内の化粧品需要は大きく減少しました。その後、2022年には、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う行動制限が緩和され始め、徐々に消費者の外出機会が回復したことから化粧品市場規模は2兆9,310億円(前年度比102.9%)に拡大しています。

しかし、価格帯別の化粧品市場規模を見てみると、高価格帯 / 低価格帯の商品は2021年度と比較して売上が回復傾向にあるところ、中価格帯の商品は前年度比99.7%と減少傾向が続いています。(市場調査会社富士経済グループ,「化粧品総市場と価格帯別の動向を総括」,2023-09-01

では、アフターコロナにおいて消費者需要の二極化が進んだのは何故なのでしょうか。

高級志向という観点では、コロナ禍の収束に伴いメイクアップの需要が増加したことで、改めて自分に合うアイテムを見直したいという美意識の高まりから、百貨店などのカウンセリングチャネルが好調となっています。さらに、今までマスクで隠せていたシミやシワなどの肌悩みに対する意識も高まっており、高価格帯のスキンケアの需要も高まっています。

低価格志向という観点では、外出機会の増加やマスクを外す機会が増えたことで、ポイントメイクやベースメイクなどの使用頻度が増加したことを受け、コスパの良い低価格帯商品へシフトする消費者が増加したと想定されます。加えて、近年の物価上昇を受けて、小売全般としての消費者の低価格志向が強まっていることも影響しています。

また、コロナ禍でライトメイクの習慣が出来てしまい、中価格帯コスメの主要顧客である30〜40代が思うように戻ってこないことも要因の1つに挙げられます。

このような理由から、化粧品市場は低価格帯と高価格帯への二極化が進み、中価格帯ブランドの存在感が希薄化している状況があります。

韓国コスメブランドの台頭

低価格帯メイクにおいて、近年急速に存在感を増しているのが韓国コスメです。日本の韓国コスメブームの火付け役となったといわれるETUDE(エチュード)をはじめとして、現在ではTIRTIR(ティルティル)やCLIO(クリオ)など様々な韓国コスメが日本展開を行なっています。日本化粧品工業会によると、韓国から日本への化粧品輸出額は2017年の約200億円から、2022年には約800億円へと大幅に増加しています。

当社、韓国コスメ販売チャネルはECや直営店、PLAZAのようなバラエティショップが主でしたが、最近ではドラックストアの化粧品売り場でも韓国コスメを見かけることが多くなりました。かつてはドラックストアの化粧品売り場を独占していた中価格帯コスメですが、最近では売れ行きの良い韓国コスメを目立つ場所に配置したり、売り場を拡大するドラックストアも増えています。

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SNSでの宣伝に不向き

コスメ・美容メディアEMME(@emme_tokyo.jp)などを運営する株式会社gracemodeが実施した、Z世代を対象とした化粧品購入時のインフルエンサーの影響力に関する調査によると、「インフルエンサーが紹介した商品を購入した回数は?」という質問に対して73%の人が購入したことがあると回答しました。また、2回以上購入したことがあると答えた人の割合が半数以上と、若い世代の化粧品購入に関するSNSの影響力の高さが伺えます。

そんな中、中価格帯コスメには「プチプラ」「デパコス」のように一般的な表現がないことがSNSでの拡散を妨げる要因となっています。「おすすめの“プチプラコスメ”5選」のようなSNS投稿を見かけることは多いですが、中価格帯コスメに使える単語がないことが、中価格帯コスメの立ち位置を曖昧にするとともに、SNSでの話題性に欠ける一因となっていると想定されます。

化粧品メーカー大手3社の戦略

化粧品メーカー各社は中価格帯ブランドについてどのような戦略を取っているのでしょうか。資生堂 / 花王 / KOSEの戦略をまとめました。

資生堂

資生堂は、2021年7月にヘアケア「TSUBAKI」やメンズ化粧品「uno」といった日用品ブランドを売却し、魚谷CEOが掲げる構造改革のもとで、好採算の中・高価格帯のスキンケアなどを中心とした体制に舵を切りました。しかし、高価格帯の商品は粗利率が優れている一方、美容部員の人件費などの固定費が高くなる傾向にあるため、業績を下支えしてきた日用品事業からの撤退により赤字となってしまいました。

そんな中、資生堂は日本事業の浮上に向けて「エリクシール」をはじめとした中価格帯ブランドに注力する方針を示しています。研究開発力とマーケティング力で、低価格帯から中価格帯への流入を獲得することを目標として、2025年までの3年間で、「エリクシール」を含む重点ブランドへのマーケティング費用を1000億円上乗せする予定です。重点ブランドの中でも、高価格帯ブランドは安定して売り上げを伸ばしている傾向にあり、エリクシールの育成が国内事業復活の鍵となることが予測されます。

花王

冒頭で述べたように、花王は中価格帯の化粧品ブランド「オーブ(AUBE)」のブランド終了を決定しました。これは、業績回復を目的とした構造改革の一環で、オーブを含む10ブランドが統廃合や廃止の対象となりました。

その他にも、花王は2018年に選定した“化粧品事業において国内外で重点投資する19のブランド”の見直しを図りました。今回の見直しによって除外されたブランドの中には中価格帯ブランドの「コフレドール(COFFRET D’OR)」などが含まれており、選出対象外のブランドついては統廃合などの対応が検討されるとのことです。新しく選定された重点投資ブランドには、中価格帯ブランドである「KATE(ケイト)」や「プリマヴィスタ(PRIMAVISTA)」が含まれており、増益の期待されるこれらのブランドに集中投資を行なっていく方針です。

KOSE

コーセーは、中長期ビジョン「VISION2026」にて、低価格帯のコスメタリー事業〜ハイプレステージまで幅広い価格帯の商品を提供していることが自社の強みであるとして、全価格帯での成長を目指す方針を掲げています。

売り上げの伸び悩む中価格帯の商品については、低価格帯の商品では提供できない最新のテクノロジーを用いた商品で差別化を図ることで、売上向上を目指します。2024年3月1日には、「雪肌精」のロングセラー化粧水“薬用 雪肌精”を発売40年目にして初めて刷新、発売しました。看板ブランドである雪肌精の原点であり主力商品でもあるクラシックシリーズの処方には先代社長のこだわりが詰まっており、これまで手を付けてきませんでした。小林社長は「新成分は“雪肌精”化粧水の歴史を変えるだろう。100年続くロングセラーへと育成する」(WWD, 「コーセー「雪肌精」薬用化粧水が大刷新 “厳しい”中価格帯の美白化粧品市場に本腰」より引用)と強い意気込みを示しています。

中価格帯ブランドが生き残るために

中価格帯ブランドは、プチプラよりも成分にこだわったコスメを、デパコスよりも安い価格で百貨店に行かずとも気軽に手に入れることができるなど優れた点も多くあります。しかし、コロナ禍による需要の二極化や韓国コスメブランドの台頭、SNS影響力の増大など様々な要因により中価格帯コスメは苦しい状況に立たされています。

どうすれば商品が売れるのかという明確な正解はありませんが、他の中価格帯ブランドとも低価格帯/高価格帯ブランドとも異なる独自の魅力や価値を見出していけるかが売上回復の鍵となるのではないでしょうか。