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2025.08.21

Aesopに学ぶ、“買える”だけじゃない店舗体験の設計術 

Aesopとは 

Aesop(イソップ)は、1987年にオーストラリア・メルボルンで創業された、ボディケア・ヘアケア・スキンケア製品を展開するブランドです。ブランドコンセプトは「知性と感性の調和」で、科学的根拠に基づいた機能性と、植物由来成分の香りや感触といった感性要素を融合させることで、日々のケア時間を“深い体験”へと昇華させる製品設計が特徴です。製品は合成香料や着色料を使用せず、成分の質と処方に徹底的にこだわっており、ミニマルかつ実験的なパッケージデザインでも高い評価を得ています。また、Aesopは単なる化粧品ブランドにとどまらず、「自己との対話の時間」を提供するライフスタイルブランドとして、世界中で熱い支持を集めています。さらに、すべての直営店舗が唯一無二の空間で構成されているのが特徴です。ブランドの哲学と土地の文化背景を融合させながら設計される店舗は、Aesopの世界観を物理空間で体現する装置となっています。ネットショッピングが主流となりつつある今、実店舗だからこその魅力を活かしているAesopから、EC時代で求められる実店舗の存在について解説していきます。

引用:https://www.yrk.co.jp/media/column_aesop_220621/ 

実店舗の魅力 

「オンリーワン」の積み重ね

ほとんどの化粧品ブランドが、統一された内装や陳列ルールで店舗展開している中、Aesopはすべての店舗が一点物。その土地の文化や歴史、空気感に基づいた設計をすることで、「画一的なブランド体験」を超えた「地域ごとの世界観」を構築しています。具体的には、出店する地域からインスピレーションを受けた、その店舗ならではのレイアウトをデザインし、特徴的な雰囲気を作っています。例えば、 

  • Aesopルミネ横浜店では港町のイメージを活かし、スチールやマリンカラーを採用 
  • Aesop銀座店では歴史あるレンガ通りに合わせて、内装全体をレンガ素材で設計 

されています。 

国内代表店舗の特徴 

店舗 オリジナリティー イメージ 
ルミネ横浜 横浜港にインスピレーションを受けた工業的素材とマリンカラーが合わさった店内 画像 
銀座 銀座レンガ通りにインスピレーションを受け店内がレンガでデザインされている 画像 
ルミネ北千住 下町風情が漂う北千住に古くからある銭湯をイメージし、近隣で取り壊していた銭湯で実際にで使われていた廃材を使用した店内 画像 
京都 谷崎純一郎の「陰翳礼讃」や世阿弥元清の美学、京都の街並みなどからインスピレーションを受けた日本の伝統文化と現代が融合した店内 画像 
神戸BAL モダンな海外感の中で、巾木や開口部のフレーム、アルコーブなどには神戸らしい「淡路瓦」が使われた港町神戸らしい店内 画像 

引用: 

https://www.aesop.co.jp/store?sid=5923

https://www.aesop.co.jp/store?sid=11102

https://www.aesop.co.jp/store?sid=3378

https://www.aesop.co.jp/store?sid=11203

https://www.aesop.co.jp/store?sid=5054

現在、世界23ヶ国に320店舗以上を構えているAesopですが、同じデザインの内装は1つもなく、それぞれの店舗は、様々な建築家やデザイナーによって考え抜いて作られています。このようにローカライズされた空間設計は、従来の「ブランド統一性」への逆張りでありながらも、「Aesopらしさ」というブランドコアを巧みに損なわず、客との関係性を“その街ならでは”の記憶に変えることに成功しています。 つまり、Aesopは「誰にとっても同じ体験」ではなく、「誰にとってもりたくなる体験」を各店舗で意図的に設計しているのです。これは、SNS拡散や口コミでの自発的発信に繋がり、広告費をかけずにブランドの認知と差別化が自然に起きている仕組みとして機能しています。 

「五感」を通した没入型ショッピング 

Aesopでは、店頭に必ず専門のコンサルタントが常駐し、製品選びをサポートし顧客一人ひとりのニーズに合わせた商品を提供してくれます。さらに、すべての店舗に製品を実際に手に取って自由に試せるシンク(洗面スペース)を設けており、「香り」「テクスチャー」「洗い上がり」などの物理的な体験を通して商品との接点を設計しています。また、一部の旗艦店には専用のトリートメントスペースでのフェイシャルトリートメント体験を提供しており、製品を納得のいくまで試せる環境が整っています。Aesopの製品は、他にはない独創的な香りの製品や肌に直接塗布する形状の製品が多いため、実際に使用感を確かめることによって顧客が自分に合う商品を選ぶことができる安心感も設計されています。 このように、Aesopの店舗ではブランドの哲学を身体で理解する場としての役割を担っています。五感体験の導入は、「店舗=ブランドの世界観に入るゲートウェイ」として機能させる戦略です。肌に直接使う化粧品において、「自分で確かめられる安心感」は大きなコンバージョン要因となるほか、納得感のある購買体験は顧客ロイヤルティの育成にも直結します。 

引用: https://malaysia.aesop.com/pages/our-story 

このように、Aesopではただ製品を販売するだけではなく、内装、接客、製品を五感で体験出来る店舗を提供しているからこそ、ネットショッピングが主流となりつつある現代においても画面越しでは絶対に味わうことの出来ない「ブランドへの没入感」や、専門のコンサルタントからのアドバイスで出会える「予期せぬ発見」の提供を可能にしているため、実店舗の存在がよりブランドの価値を高めています。 

Aesopから学ぶブランディング 

Aesopの魅力について書いていきましたが、実際に魅力的な店舗を作るために必要なこととは何か、ブランドの世界観を表現する方法について解説していきます。 

ネットショッピングが主流の現代において実店舗には、それでもなお店舗で購入するという意義というものを持たせなければなりません。ブランドの製品を体験することができるのはもちろんのこと、入りたいと思わせる内装やまた来たいと思う接客、そして何より「ここでしかできない」という唯一無二感を持たせる必要があります。Aesopでは内装にバリエーションを持たせたり、製品のプロに相談しながら買い物をすることができたり、手で触れることができることができるのはもちろんですが、あえて「この店舗ではこの体験ができ、違う店舗ではまた違う体験ができる」と店舗同士の差別化を行っています。内装、接客、体験どれもが「ここでしかできない」特別感を作っています。もちろん商品を買ってもらうことも大切ですが、実店舗では商品を知ってもらうには、お店に入ってもらうには、というような視点を大切にすることが結果的に購入につながります。 

また、あえて「広告に頼らない」という戦略を立て、店舗や購入者の口コミによる自然な発信での広がりを大切にしています。Aesopの出店している地域を見ると繁華街ではない都心に多いこと、そしてこだわった成分と独創的な香り、シンプルで無駄のないパッケージ、このようにAesopは主に都心に住む、質を求める大人向けのブランドであることがわかる。気軽に新しいものを試しに買ってみる人ではなく、本当にいいものを求める大人に刺さるように、店舗で商品に触れられるようにし、広告ではなく口コミでの広がりを大事にすることで、ターゲット層の求めているものにはまったのです。 

画像引用: https://www.aesop.co.jp/facial-appointments.html 

さいごに

Aesopの店舗体験は、ネットショッピングの「どこにいてもできる」になれてしまった現代にとって反対に「ここでしかできない」斬新で魅力的に映っています。ネット上では様々な製品がPRや広告などで視界に入り、本当に自分に合うものは何なのかを見失ってしまいがちであるからこそ触れて、試して、プロの意見を直接聞けることが、間違いのない製品との出会いになります。限定的な体験や、店舗がただの製品が置いてある場所にならないことが現代における実店舗に求められることであるといえます。