今回は、クレンジングバーム市場を牽引し、多くの女性から支持されるブランド「DUO(デュオ)」を取り上げます。なぜDUOはこれほどまでに成長し、確固たる地位を築くことができたのでしょうか?その歴史を紐解きながら、商品開発、プロモーション戦略、ブランディングといった多角的な視点から、成功の要因を深掘りしていきます。
目次
DUOブランドの誕生とコンセプト:「落とす」ことから始まる美肌づくり
「美肌づくりは”落とす”ことから」
この信念に基づき、肌本来の美しさを引き出す土台ケアを追求して開発されたのがDUOです。
ブランド名である“DUO”は、「自然」と「科学」という、時に相反するとも考えられる2つの要素の融合を意味します。肌への優しさを追求した自然由来の成分と、確かな効果を追求する先端科学。この2つが融合して初めて、未来へと続く本質的なスキンケアが実現できる。そんな想いが込められています。
DUOの歴史:クレンジングバームと共に歩んだ成長の軌跡
DUOブランドが誕生したのは2010年2月。その歴史は、初代「ザ クレンジングバーム」と共に始まりました。
【黎明期:クレンジングバームという選択】
2010年2月「ザ クレンジングバーム」発売開始

〈開発の背景〉
多くの女性が抱えるクレンジングのジレンマである「洗浄力が高いと肌に負担がかかる」「肌に優しいとメイクが落ちにくい」という課題がありました。この課題に対し、『負担をかけず、やさしく、かつ確実に落とす』ことを追求しました。摩擦を最小限に抑えるため、軟膏から着想を得たバーム形状を採用しました。W洗顔不要で、クレンジング、洗顔、角質ケア、マッサージケア、トリートメントの5役をこなす機能性も画期的でした。
【成長期:ニーズに応えるラインナップ拡充と認知度向上】
2014年5月「ザ クレンジングバーム クリア」発売

毛穴悩みに特化し、多様化する顧客ニーズに対応。
2017年10月「ザ クレンジングバーム ホワイト」発売

くすみケアに着目し、透明感のある肌へ導くアイテムとして登場。
2018年9月KinKi Kidsを起用した初のテレビCM「とろけてナイト」放映開始
これがブランド認知度を飛躍的に高める大きな転換点となります。
2019年8月ブランドリニューアル

ロゴを「D.U.O」から「DUO」へ変更し、”D”に数字の「2」を忍ばせるデザインに。パッケージもグレージュ基調の洗練されたデザインへ刷新。スパチュラを内蔵できる容器へと改良し、顧客体験も向上させました。
2019年10月バームシリーズ累計出荷個数1,000万個突破
【飛躍期:市場No.1ブランドへ】
2020年2月:ブランド誕生10周年。記念商品の限定発売

2020年4月:「ザ 薬用クレンジングバーム バリア」発売
敏感肌向けニーズに対応。
2020年4月:バームシリーズ累計出荷個数1,500万個突破
2020年6月:クレンジング売上No.1を獲得
2021年3月:「ザ クレンジングバーム ブラックリペア」発売

頑固な毛穴の黒ずみやザラつき悩みに応えるべく開発
2021年6月:クレンジング売上2年連続No.1
(TPCマーケティングリサーチ㈱によるクレンジングブランド別シェアランキング調査(対象期間:2019年4月~2021年3月/調査時期:2020年6月および2021年6月))
2021年10月:バームシリーズ累計出荷個数3,000万個突破
2022年~2024年:継続的な商品リニューアル(ホワイトa)、出荷個数の増加(2024年2月時点で5,000万個突破)、そしてクレンジング売上5年連続No.1を達成
(TPCマーケティングリサーチ(株)調べによるブランド別クレンジングに関する調査(対象期間:2019年4月~2024年3月/調査時期:2024年4月))
名実ともにクレンジング市場を代表するブランドへと成長しました。
なぜDUOはこれほど愛されるのか?成功を紐解く3つの鍵
DUOの成功は、単一の要因によるものではありません。革新的な製品力、大胆なプロモーション、そして緻密なブランディング戦略が有機的に結びつき、相乗効果を生み出した結果と言えるでしょう。ここでは、DUOをトップブランドへと押し上げた3つの重要な鍵を、競合との比較も交えながら詳しく考察します。
鍵1:「クレンジングは面倒」を覆した、圧倒的な製品体験
【市場の常識を覆した「とろけるバーム」:クレンジングの新基準を創出】
DUOが登場した2010年当時、クレンジング市場はオイルタイプやミルクタイプが主流でした。それぞれにメリットがある一方、「オイルは乾燥しやすい」「ミルクは洗浄力が物足りない」「W洗顔が面倒」といった不満の声も存在していました。
そこに登場したのが、DUOの「ザ クレンジングバーム」です。
ポイント1:独自テクスチャーによる差別化
固形バームが肌の上でとろけるというユニークなテクスチャーは、摩擦レスという価値を提供し、肌への負担を懸念するユーザーの心を掴みました。これは、既存の剤型にはない明確な差別化ポイントでした。
ポイント2:「W洗顔不要」という時短価値
クレンジング後の洗顔が不要という手軽さは、忙しい現代女性のライフスタイルに合致しました。「スキンケアは時間をかけたいけれど、クレンジングは手早く済ませたい」というインサイトを的確に捉え、多くの支持を集めました。競合製品の中にもW洗顔不要を謳うものはありましたが、DUOは「落とす」ことへの効果実感と「スキンケア効果」の両立を高いレベルで実現した点が際立っていました。
ポイント3:「落とす」以上の付加価値
単にメイクを落とすだけでなく、角質ケアやマッサージ、トリートメント効果まで備えている点も、既存のクレンジング剤とは一線を画すものでした。「クレンジングするだけで、肌の調子が良くなる」という実感は、リピート購入へと繋がる強力な動機となりました。
【ニーズに応える進化:飽きさせないブランドへの挑戦】
初代バームの成功に甘んじることなく、DUOは顧客の多様な肌悩みに寄り添い、製品ラインナップを拡充し続けました。「クリア(毛穴)」「ホワイト(くすみ)」「バリア(敏感肌)」「ブラックリペア(頑固な毛穴)」といった、悩み特化型の製品展開は、顧客が自身の肌状態に合わせて最適なアイテムを選べるようにし、ブランドへのエンゲージメントを高めました。常に新鮮さを提供し、「自分のためのブランド」と感じさせるこの戦略は、ロングセラーブランドであり続けるための重要な要素です。
鍵2:業界のセオリーを破る、大胆不敵なプロモーション戦略
【業界震撼!KinKi Kids起用という「賭け」とその絶大な効果】
2018年のKinKi Kidsを起用したテレビCMは、DUOの認知度を爆発的に高める起爆剤となりました。
ポイント1:「女性向けスキンケア×男性トップアイドル」という常識破り
当時の化粧品CMは、ターゲット層である女性に近い、同性の女優やモデルを起用するのがセオリーでした。そこに、老若男女問わず高い人気と知名度を誇るKinKi Kidsを起用したことは、極めて大胆な一手でした。この「意外性」が、まず大きな話題を生み出しました。
ポイント2:ターゲット層の拡大
KinKi Kidsのファン層は幅広く、従来のDUOのターゲット層だけでなく、これまでブランドを知らなかった層へも一気にリーチすることを可能にしました。特に、購買力のある大人世代の女性ファンに強く響き、トライアル購入を促進しました。
ポイント3:「デュオ本兄弟」という発明
単にアイドルを起用するだけでなく、「デュオ本兄弟」というキャラクター設定と、ムード歌謡「とろけてナイト」というキャッチーな楽曲を用意した点が秀逸でした。商品の特徴である「とろける」を、コミカルかつ耳に残る形で表現し、CM好感度No.1を獲得。競合他社の美しいイメージ訴求型のCMとは一線を画し、エンターテイメント性の高いコミュニケーションで強い印象を残しました。
引用:CM総合研究所調べ:2018年下半期調査「化粧品業類」銘柄別ランキング1位(対象期間:2018年6月20日~12月19日/対象エリア:東京キー5局/モニター対象:関東1都6県在住18,000人)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000014975.html
【「男性ミューズ」戦略の先駆け:ジェンダーの壁を超えた共感の獲得】
DUOのKinKi Kids起用は、その後の化粧品業界における「男性ミューズ」起用の潮流を予見させるものでした。雪肌精(羽生結弦選手、大谷翔平選手)やコスメデコルテ(大谷翔平選手)などが、ブランドイメージに合致したクリーンで誠実なイメージを持つ男性を起用する一方、TIRTIRなどが若年層に人気のアイドルを起用するなど、戦略は多様化しています。
DUOの戦略が特に効果的だったのは、「アイドルの話題性」と「商品の機能性訴求」を巧みに組み合わせた点にあります。アイドル起用による初期のインパクトで注目を集め、CMで商品の特徴を分かりやすく伝えることで、実際の購買へと繋げる流れを見事に作り上げました。これは、単にイメージキャラクターとして起用するだけでなく、商品理解を深めるコミュニケーション設計が伴っていたからこその成功と言えるでしょう。
鍵3:「身近さ」と「特別感」を両立させる、絶妙なチャネル&ブランディング
【「どこでも買える」のに「ちょっと良いモノ」:巧みなチャネルミックス】
DUOは、主に通販とドラッグストア、バラエティショップで販売されています。
ポイント1:通販発ブランドの強み
もともと通販を起点としており、ダイレクトマーケティングのノウハウが豊富でした。顧客データを活用したCRM(顧客関係管理)や、定期購入モデルによる安定収益基盤を持っていたことが、後の大胆なマスプロモーション展開を支えたと考えられます。
ポイント2:ドラッグストア展開によるリーチ最大化
幅広い層が日常的に利用するドラッグストアでの販売は、ブランドの認知度とトライアル機会を大幅に向上させました。「気になった時にすぐ買える」という利便性は、ユーザーにとって大きなメリットです。
ポイント3:競合との差別化
百貨店を中心に展開する高級ブランド(例:シュウ ウエムラ)や、通販・直営店に特化するブランド(例:ファンケル、アテニア)とは異なり、DUOは「比較的身近な場所で買える」にも関わらず、「一定の品質と価格帯」を維持することで、独自のポジションを築きました。
【マス広告とデジタル施策の連携:隙のないブランドイメージ構築】
ドラッグストアで手軽に買える一方、DUOはブランドイメージの構築にも注力しています。
ポイント1:継続的なマス広告
テレビCMや雑誌広告を通じて、「品質へのこだわり」や「信頼感」といったメッセージを発信し続け、単なる「ドラッグストアコスメ」ではない、一段上のブランドイメージを醸成しています。
ポイント2:口コミ・SNSの活用
発売当初からコスメ・美容クチコミサイトで高い評価を獲得していたことは、ブランドの信頼性を高める上で大きな力となりました。また、SNSでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)も多く、自然な形での口コミ拡散が起こりやすい環境ができています。インパクトのあるCMと、ユーザーのリアルな声という両輪が、ブランドへの興味と信頼を効果的に高めているのです。
このように、DUOは「マス市場での利便性」と「品質・世界観へのこだわり」という、ともすれば相反する要素を、巧みなチャネル戦略とブランディングによって両立させている点が、競合に対する大きな強みとなっています。
まとめ:DUO成功の本質と、ブランド担当者への示唆
DUOが築き上げてきた確固たる地位は、決して偶然の産物ではありません。その成功の本質は、顧客が抱える潜在的な不満、すなわちインサイトを徹底的に追求し、既存市場の常識を覆す革新的な製品(ザ クレンジングバーム)で応えた点にあります。
しかし、優れた製品だけでは今日の成功はなかったでしょう。DUOは、業界のセオリーにとらわれず、時代を読み解き、男性アイドルの起用といった大胆な挑戦によって、ブランドの認知度と魅力を飛躍的に高めました。
さらに特筆すべきは、製品開発、プロモーション、チャネル戦略、ブランディングといった多様なマーケティング要素を、個別に展開するのではなく、有機的に連携させ、ブランド全体の価値を高める相乗効果を生み出すよう、緻密に戦略が練られていたことです。「身近さ」と「特別感」を両立させる絶妙なバランス感覚は、その好例と言えるでしょう。
そして、その根底には、一度成功を収めても決して安住せず、常に顧客の声に耳を傾け、ブランドを進化させ続ける真摯な姿勢があります。この絶え間ないアップデートこそが、DUOを長きにわたり市場の最前線に立たせている原動力なのです。
DUOの歩みは、私たち化粧品業界に携わる者にとって、単なる成功事例の研究に留まらず、自社ブランドの未来を思考する上で、多くの貴重な示唆を与えてくれます。顧客の本質的なニーズに応え、既成概念を打ち破る勇気を持ち、そして常に真摯にブランドと向き合い続けることの重要性を、DUOの軌跡は力強く物語っていると言えるでしょう。