目次
はじめに
近年、InstagramリールやYouTubeショーツを活用したプロモーションが、美容ブランドのマーケティングにおいて新たな主流になりつつあります。本記事では、各プラットフォームの特性を整理しつつ、売上につながる動画コンテンツとは何か。「思わず保存したくなる」動画の作り方や実際の成功事例を、ブランド担当者の視点で具体的に解説します。
第1章:「TikTok売れ」現象から見るSNSコマースの本質
かつて“口コミでバズる”といえば雑誌やテレビが中心でした。しかし、いまの購買行動を動かしているのは、わずか15秒〜30秒の動画から生まれる「リアルな共感」です。中でも象徴的なのが、「TikTok売れ」と呼ばれる現象です。
ユーザーが「このリップ、想像以上に発色いい!」といった率直な感想を投稿すると、それが次々とシェアされ、翌日には店頭やECサイトで在庫がなくなる。PR施策よりも自然発生的な口コミが売上を押し上げるケースは、美容業界でも日常的に起きています。
たとえば、Maybelline(メイベリン)の「Lash Sensational Sky High マスカラ」は、TikTok上での使用レビュー動画がバズり、若年層を中心に急速に支持を得ました。また、キャンメイクは「コスパ×リアル使用動画」で“信頼できるプチプラブランド”としての地位を確立。Diorのようなグローバルブランドも、公式動画にUGCを掛け合わせる「二層構造」で拡散を生み出しています。
この「TikTok売れ」が示しているのは、もはやSNSが“広告媒体”ではなく、“購買行動の起点”になっているということ。ブランドが何を発信するかではなく、ユーザーがどう感じ、どう共有するか。そこに売上を左右する本質があるのです。
第2章:テレビ広告からショート動画広告へ。変化を生んだユーザー行動のシフト
ここ数年、テレビ広告からショート動画広告への移行が急速に進んでいます。その背景にあるのは、単なる「媒体の流行」ではなく、ユーザーの行動と心理の変化です。
まず大きなポイントは、「視聴時間の分散化」です¹。かつてはテレビが“唯一の映像メディア”として家庭の中心にありましたが、いまはスマートフォンが常に手元にあり、1日を通して断続的にコンテンツを消費する時代です。ユーザーは長尺の映像よりも、“すきま時間”に楽しめる短い動画を好むようになりました。

次に、「能動的視聴」の増加。テレビ広告は“流れてくる情報を受け取る”ものでしたが、ショート動画は“自分で選び、スワイプして判断する”体験です。この能動性が、広告への期待値を「押し付けられる情報」から「見つけたい情報」へと変化させました。
さらに、美容業界では「信頼の基準」も変わりました。かつては有名モデルの出演や映像美が“信頼”を担保していましたが、今は同世代ユーザーのリアルなレビューこそが最も説得力を持ちます。「テレビの向こうの誰か」ではなく、「自分と同じ生活者」が発信するコンテンツが購買のきっかけになるのです。
このように、ユーザーの時間の使い方・情報との向き合い方・信頼の持ち方が変わったことで、ブランドも「映像を届ける」から「体験を共にする」へと広告設計を転換する必要が生まれました。だからこそ、ショート動画広告は“新しい表現手段”ではなく、“新しい購買体験の場”として注目されているのです。

1)博報堂 メディア環境研究所 「メディア定点調査2025」時系列分析 2025年6月4日
https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/117303/?utm_source=chatgpt.com
第3章:プラットフォーム別・ショート動画コマースの特徴「 TikTok/Instagramリール/YouTube Shorts をどう使い分けるか」
ショート動画が購買行動を左右する時代。もはや「見られる動画」だけではなく、「買われる動画」をどう作るかがマーケティングの焦点になっています。ここでは、主要3プラットフォーム「TikTok、Instagramリール、YouTube Shorts」を比較し、それぞれのコマース活用のポイントを整理します。
◆ 分析:各プラットフォームのコマース構造を理解する

1. TikTok:バズから購買へ ―「偶発的出会い型」コマース
TikTokでは、ユーザーが“意図せず”商品動画に出会うことが多い。そのため、「おすすめに乗る」構成が鍵です。たとえば、商品の紹介よりもストーリー性・使用体験・音楽との親和性を重視した動画が高い反応を得やすい。さらに、TikTok Shop機能を使えば動画から直接購入が可能で、「見てすぐ買う」体験を設計できます。 キーワードは 「エンタメ×購買」。
2. Instagram Reels:世界観から購買へ 「共感型」コマース
Instagramでは、ユーザーが「ブランドの世界観」に惹かれて購買につながるケースが多い。投稿からショップページまでの導線がスムーズで、「気になる → 保存 → 購入」という行動が自然に起きやすい構造です。特に、リールで商品を使うシーンを短く見せ、詳細はフィード投稿で補完する“複合設計”が有効。 キーワードは 「美意識×信頼感」。
3. YouTube Shorts:理解から購買へ 「情報納得型」コマース
YouTubeは他のSNSと比べて「情報収集目的」での利用が多い。そのため、ショート動画単体よりも、短尺→長尺→購入というストーリー展開が基本戦略。たとえば、Shortsで商品特徴を一言で紹介し、概要欄からレビュー動画や購入ページへ誘導する。
他より購買決定までの時間は長いが、ファン化・信頼形成には最も強いプラットフォームです。
キーワードは 「教育×理解」。
◆ 戦略的示唆:3媒体を“連携”させる時代へ
単一プラットフォームで完結するコマースは、もはや限界があります。「TikTokで“話題を作り”、Instagramで“世界観を育て”、YouTubeで“理解を深める”」この3つの流れを意識することで、ユーザーが自然に「知る→好きになる→買う→共有する」サイクルを生み出せます。
つまり、ショート動画コマースは「プラットフォーム戦略」ではなく「行動設計」。「どの媒体でどんな気持ちのユーザーに接触するか、そこから体験をどう連動させるか。」という視点が、これからのマーケターに求められる思考です。
第4章:成功事例から見る“売上につながるショート動画”とは?
ショート動画コマースの成功は、単に「バズを起こした」かどうかで測れるものではありません。本当に売上につながるのは、再生数よりも“ユーザーがどれだけ行動したか”を示す指標です。ここでは、美容業界を中心に実際の成功事例と、成果を左右する重要KPI(Key Performance Indicator)を解説します。
成功事例①:&be(アンドビー) ― 「ブランド発信×UGC拡散」の好循環
ヘアメイクアップアーティスト・河北裕介氏プロデュースの&beは、Instagramリールを中心に発信。公式アカウントが新商品の使い方を投稿した直後、フォロワーやファンが「#&be下地」「#河北メイク」でUGCを量産。
結果、ハッシュタグ全体で数百万回の再生を記録し、公式ECの売上が短期間で上昇しました。

引用:2025年10月16日 Instagram 河北裕介
https://www.instagram.com/reel/DMm2sxCxQBL/?utm_source=ig_web_copy_link
ポイント:
- ブランド発信は“方向づけ”に留め、UGCが自然に拡散する余白を残す。
- 投稿頻度よりも「話題を作るタイミング設計」が重要。
- ブランドアカウントが週1~2回でも、UGC連動で常時露出状態を維持。
成功事例②:L’Oréal Paris × YouTube Shorts ― ストーリーテリング型動画で信頼を獲得
L’Oréal Parisは、YouTube Shortsで「Before→After」構成のショートレビューを展開。
ショートで印象を残し、概要欄から詳細レビュー(長尺動画)へ誘導する二段階導線を設計しました。結果、平均視聴完了率が40%以上、長尺動画のCTR(クリック率)は従来広告比で約1.5倍に上昇。

引用:2025年10月16日 Youtube L’Oréal Paris USA
https://www.youtube.com/@LOrealParisUSA/featured
ポイント:
- ショートは「入口」、長尺は「説得」。
- ショート内で“違いが一目でわかる”演出が効果的。
- 重要なのは「再生数」よりも「次のアクション率(CTR)」。

売上を動かすのは「熱量のある視聴体験」
ショート動画コマースの本質は、再生数でもフォロワー数でもありません。“どれだけの人が心を動かされ、行動したか”がすべてです。
保存した、コメントした、誰かに見せた——その一つひとつが「購買意欲の前兆」であり、それらを可視化し、継続的に積み上げることこそがブランドの資産になります。
次の時代は、「誰が見たか」よりも「誰が共感し、動いたか」。その定性的な熱量をどう定量化していくかが、これからの美容マーケティングの鍵になるでしょう。
さいごに:「再生数」よりも「共感」と「保存」が次のKPIに。
ショート動画コマースの成功は、もはや「バズること」だけでは測れません。ユーザーが「共感して保存し、後から購入につなげる」――この流れこそ、今の購買行動の中心にあります。
TikTokではリアルな使用感が信頼を生み、Instagramリールでは美的な世界観がブランドロイヤリティを高め、YouTube ShortsではHow to型が再生と購買を橋渡しします。それぞれのプラットフォームで“誰に”“どんな感情を動かすか”を明確に設計することが重要です。
つまり、これからの美容業界の動画戦略は「売る動画」ではなく「信頼される動画」をつくる時代。そのために、KPIは再生数ではなく、保存数・コメント数・投稿頻度の継続性に目を向けることが、ブランド成長のカギとなるでしょう。